医療データにおける,ブラインド信号分離の応用

国家公務員共済組合連合会 新小倉病院麻酔科1、九州工業大学工学部制御工学2、産業医科大学麻酔科学教室3
松本 尚浩1,松岡 清利2,佐多 竹良3,重松 昭生3

【緒言】ブラインド信号分離 (BSS: blind signal separation) は混合過程が未知である場合にも,原信号の統計的な性質を利用して,観測信号から原信号を復元できることが大きな特徴である.昨年のこの学会での報告に引き続き,今回我々は,胃電図データについて,相互キュミュラントと呼ばれる統計量を評価して信号分離を達成する方法で解析を行ったので報告し,あわせて,他の医療データでのBSSの応用例について概説する.
【対象及び方法】胃電図記録の対象は,この研究に関して,説明を行い同意を得られた新小倉病院入院中の患者とした.胃電図記録は,ニプロ胃電計EG(株式会社ニプロ,大阪市)を用い,胃電計EG専用ソフトEGS (グラム株式会社,浦和市)を用いてデータを取り込み,テキスト変換を行った.BSSによる解析には,matlab (cybernet社製) を用い,畳み込み混合のための新たなBSSアルゴリズムを用いた.
【結果及び考察】全身麻酔下患者から得られた胃電図データ(測定時間は約5時間,サンプリング周期は1秒)の内,10000サンプルを用いて解析した結果,4つの電極で測定したデータから.胃電位と思われる約 3cpm (cycle per minute) の信号が分離された.BSSの手法を用いた胃電データの解析には,原信号の混合過程を瞬時混合であると仮定した報告があるが,実際の混合過程は畳み込み混合であると考えられるため,今回は原信号が瞬時混合される場合の手法を,畳み込み混合に拡張したBSSアルゴリズムを用いて,胃電位を抽出した. Cayley変換を用いることで,分離器の更新則が簡単に表現できた.胃電図解析で通常用いられる高速フーリエ変換を主体とする解析方法では,4つの電極全てから胃電図の要素を分析することは困難であるが,BSS を用いると,これまでノイズに紛れて認識困難であった胃電位を抽出することができると思われた.ただ今回の解析法では,10000ポイント以上のデータが必要なので,短時間のデータでの解析への対応は今後の課題である.
【結語】胃電図解析にBSSを応用し,従来の解析法では得られなかった胃電位の抽出が可能となることが示唆された.



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