全静脈麻酔を想定した麻酔器の試作

東京女子医科大学麻酔科学教室
○長田 理,磯山裕子,尾崎 眞

 現在市販されている麻酔器には,酸素・亜酸化窒素・圧縮空気の流量計を通した供給,セボフルラン・イソフルランなどのハロゲン化合物の気化器を通した供給,呼吸回路内の二酸化炭素吸収装置,バッグ・人工呼吸器による陽圧換気装置が組み込まれている。このようなシステムは,吸入麻酔薬を用いた全身麻酔を行うためには非常に効率的なものであるが,近年急速に普及しつつある静脈麻酔薬による全身麻酔を行うためには適したものではない。そこで我々は,プロポフォールによる全身麻酔を想定した全身麻酔器に必要な条件を整理し,最新テクノロジーによる全静脈麻酔用の全身麻酔器を試作した。
[静脈麻酔用全身麻酔器に必要な条件]
・全身麻酔に使用する酸素,圧縮空気が供給されること(ハロゲン化合物の供給は不要)
・呼吸回路内に二酸化炭素吸収装置を含み,用手換気,機械換気が可能であること
・使用する静脈麻酔薬の数だけ投与装置(シリンジポンプ)を装備すること
 以上の項目については,現在の吸入麻酔を想定した全身麻酔器から気化器を取り外し,複数台のシリンジポンプを取り付けることで作成可能であった。
[静脈麻酔用全身麻酔器に望まれる要件]
・静脈麻酔薬の効果を評価する適切なモニターを装備していること。この点に対して,鎮静度を評価するBISモニターと筋弛緩モニターを組み込んだ。
・静脈麻酔薬の効果を調節・維持するのに適切な投与制御機構(目標制御注入法 Target-Controlled Infusion; TCIや,閉鎖制御システム Closed-Loop Conrol; CLC)を備えていること。この点に対して,無停電システムであるノートパソコン上でTCI/CLCを実現する静脈麻酔器コンピュータシステムを動作させることとした。
・静脈麻酔薬の投与状況を,生体情報(心拍数,血圧,経費的酸素飽和度,回路内酸素濃度など)と共に電子媒体に記録できること。この点に対して,生体情報をオンラインで静脈麻酔器コンピュータシステムに転送し,情報を一元的に管理することとした。
・麻酔薬の投与状況とそれに付随する情報(予測血中濃度・効果部位濃度など),測定している生体情報を,遠隔地からモニターできること。
・十分なセキュリティーを確保した上で,静脈麻酔薬の投与制御を遠隔地から操作できること。以上2点に対し,静脈麻酔器コンピュータシステムをネットワーク対応に改良した。
 このような要件を満たす静脈麻酔用全身麻酔器Anesthesia Machine for TCI and CLC (AMTC)を試作し,臨床で使用した場合のメリット・デメリットについて報告する。



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