パルスオキシメーターを「健康機器」に:富士登山のデータなど

帝京大学医学部麻酔学教室
○諏訪邦夫

[はじめに]パルスオキシメーターは医療機器としてだけでなく健康機器として一般大衆が利用する可能性があると考えてきた.今回,5万円未満の機種の販売を機会に,登山者のデータを採取した.同時に,私自身の旅客機内でのデータも紹介する.
[方法]二つの手順で検討した.
1.山と渓谷社の企画による高齢富士登山者2名
山と渓谷社のプロジェクトで,60歳代の登山者二人を伴って富士山に登りながら,パルスオキシメーターを使用してSpo2のデータを採取した.登山中に,1時間毎に休憩する時のSpo2値を採取した.
2.演者自身の国際線長距離旅客機内でのデータ
2000年6月のモントリオール出張時に偶然にパルスオキシメーターを持参していたので,旅客機の中でテストした.安静状態でのSpo2と,息こらえで低下するレベルを測定した.息こらえは,FRCからの息こらえ(30〜40秒程度)を中心に検討した.

[結果]1.富士登山の結果
富士山頂(今回の最高点は浅間神社の3680m)での酸素飽和度は,理論値89%程度である.二人の登山者は,1時間の休憩で2770mで88→94%と81→93%に(理論値92%),3175mでは85→89%と80→90%(理論値91%)にとSpo2が回復した.
2.息こらえの結果
旅客機内の気圧は高度1700mレベルで,気圧換算で614mmHg,軽度の過換気(Paco2=34)としてPAo2=79mmHg,Sao2= 95%が予測値で,実測のSpo2も95〜96%であった.FRCから30〜40秒程度の息こらえでSpo2は80%付近まで低下し,十数回のテストの最低値は72%であった.
[考察]富士登山の経過で,2時間の登攀(高度差は最初が540m,二度目が400m)の直後のSpo2は低く,その後1時間休憩した後のSpo2は回復した.この間,登山者自身は特別の疲労や高山病の症状は呈していなかったが,ごく軽度で可逆性の肺病変が発生していたと解釈する.下降時のSpo2は同じ高度で常に登攀時ほり高かった.
旅客機での息こらえでSpo2を大きく下がる事実は,旅客機内での睡眠時無呼吸の危険を示唆する.
[結論]パルスオキシメーターの一般健康機器としての使用の可能性を示した.
謝辞:小池メディカル(株)特に久保田博南氏,山と渓谷社に感謝する.
参考:富士登山の数値の詳細は「山と渓谷」2000年9月号に報告されている.



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