救急医療メーリングリスト運用の困難性について

愛媛大学救急医学、大阪府立病院麻酔科*、秋田大学救急医学
〇越智元郎、森 隆比古*、坂野晶司**

 メーリングリスト(ML)は電子メールの同報機能を用いた一種のフォーラムであり、職種や所属組織、地域などの壁を超えた豊かな情報交換の場となる。1996年2月にスタートした救急医療ML(eml)では1000人近いメンバーが、年間 6000通を越えるメールを交換してきた。メンバーはその全員が氏名や連絡先を公開し、また親睦会などを通じて人間的な絆を強めている。さらにすべての交信記録をデータベースとして共有することにより、各自が発言に責任を持ち、また有用な知的資源として活用している。 emlにおける重要な論議の合意事項は可能な範囲で、ウェブや医学誌への投稿の形で公開した。さらに会員が eml上で「蘇生法に関する ILCOR勧告」の翻訳や乳幼児蘇生法講習会などの有意義な社会的活動を計画・実施し、大きな成果を得ている。MLが救急災害医療領域におけるきわめて重要な情報交換の手段であることが、救急医療の分野でも次第に知られてきた所である。
 emlがかつて遭遇した問題の1つに「配送メールが多すぎて読めない」などとして、一部の会員が退会したことがあった(1996年11月)。その対策として、交信記録のある非公開ウェブを閲覧できる準会員の制度を設けた。また、特定のテーマを扱う複数のMLを同時運用し、emlメンバーの全員がそれらの交信記録を閲覧できるようにした。
 2つめは外部へ持ち出されたメールが発信者の職場で取り沙汰され、叱責を受けたというもの(1997年12月)。この件はメールを持ち出した会員が名乗り出て謝罪して解決した。これを機にメールの無断持ち出し禁止などを含む「申し合わせ事項」を作成し、毎年検討・改訂するとともに、会員全員が毎年「申し合わせ事項」遵守を誓って emlへの再登録をすることとした。新入会に際しても遵守の誓約を得た上で登録している。その後は大きな問題は生じず、1999年末に3度目の「申し合わせ事項」の改訂と会員再登録を実施した。
 しかしその後、emlへの投稿メールが外部へ持ち出され不愉快な思いをしたという訴えが散発し、同時にそのような無断持ち出しが日常的に行なわれているとする証言が相次いだ。さらに2000年7月、会員が投稿メールの内容を職場で守秘義務違反と言われ、処分を示唆された。われわれの判断では当該メールの内容は守秘義務をおかすものではなかった。会員全員にメール持ち出しの事実を確認する一方、会員の所属組織などからの参加者に事情を確認したが事情は判明しなかった。このことにより、誓約して集まった善意の会員という前提で症例検討を行ったり、過去の交信記録を共有することには無理があると判断した。現在 emlは休会中であり、公開できる情報の共有を中心とし、なおかつ職種や地域の壁を超えた ML community を形成できる運用法を模索している。
 emlでは特定できる多数の会員によって有意義な情報交換が行われた。しかし善意を前提とした運用では悪意の漏洩などを防げず、新しい運用方法を考える必要がある。



タイトルインデックスへ戻る
著者名インデックスへ戻る
トップページへ戻る