脳波から個々の患者の麻酔深度(hypnotic level)を探る試みについて

1 大阪府立羽曳野病院麻酔科,2大阪大学医学部附属病院手術部, 3大阪府立病院麻酔科
○1萩平 哲,2高階 雅紀,3森 隆比古

麻酔薬の作用には個人差が大きいため,投与量や血中濃度・呼気中分圧から適正投与量であるか否かを判断することは困難で,その効果から適正さを判定する必要がある.そこで鎮静の指標を脳波から得ることを試みた.
これまでに用いられているSEFやBISではその絶対値から個々の患者の麻酔深度を的確に示すことはできない.しかしながら脳波パラメータの変化パターンは患者間で共通である.この点に着目し,いくつかの脳波パラメータの変化パターンから個々の患者の麻酔レベルを推察することを試みた.今回我々はSEF90とBISのサブパラメータであるRelative β Ratio(RBR), Burst Suppression Ratioに着目して硬膜外麻酔併用の全身麻酔患者について検討した.
まず,揮発性麻酔薬の場合呼気濃度が計測可能であるため主にisofluraneについて検討した.この場合大部分の症例でRBRは0.5-0.6%辺りで最低値を示し,これよりも濃度が高くても低くても値は高くなった.一方SEF90は脳波がburst suppressionパターンを示していない濃度(中等度以下の濃度)ではisoflurane濃度につれて変化した.なおpropofolでは推定血中濃度のみしか得られていないが,脳波パラメータの変化パターンはisofluraneとほぼ同様であった.
硬膜外麻酔併用もしくは麻薬などの鎮痛薬と揮発性麻酔薬やPropofolなどの静脈麻酔薬を組み合わせて使用する場合それほど深いhypnosisは必要ない.実際に今回研究を行った対象症例では手術の後半は0.5-0.6%程度のisofluraneで管理したが,抜管時や手術室退室時の記憶が残っていた患者は1例も認められなかった.
また,今回の研究対象の症例中3例はRBRが最低値を示すisofluraneの呼気濃度が0.7-0.8%程度と他の患者より高く,これらの患者ではこのレベルで麻酔を維持したが特に覚醒遅延は認められなかった.おそらくこれらの患者では他の患者に比べisofluraneに対する感受性が低かったのではないかと推察された.
以上の結果より十分な鎮痛効果が得られているならばRBRを最低にする程度の鎮静レベルを目標とする麻酔で十分ではないかと考えられた.



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